不測の事態にそなえて

すっかりメランコリックな思い出話に花を咲かせてしまっているこの連載ですが、もうちょっとお付き合いください。

さて、ハッキネンを応援しながらF1知識を身につけ、にわか通を気どりはじめた頃。優勝争いの合間を縫うようにチラホラ現れる、黄色いマシンが気になりだしたのです。はじめはまあ、ハッキネンがリタイアした際など、たまたま黄色が上位にいるなあ、ふうん、応援してみようかしらん、ぐらいの軽い気持ちでした。失礼な言い方ですが、あえて言うならF1観戦を最後まで楽しむための保険です。キープです。

というのも、F1というのは過酷なスポーツで、期待に胸膨らませ待った長い2週間、いよいよウイークエンドの夜も更けた、今日やる仕事は終わらせた、コーヒーにお菓子も用意した、いよいよフォーメーションラップだ、さあ、みんなスターティンググリッドについた、ようしハッキネン、最初のコーナーが肝心だ、ランプが消えた、スタート!…アラ?「あー!ハッキネン、スタートできません!なんという事だ〜、エンジンストール、ハッキネン、レースを終えました」ってこの後私、何を楽しみにレース見たらいいんですか。いっその事もう見るの止める?止めとく?…てな事に非常になりがちなのです。

デュアル応援作戦!?

そこで、当たり前ですが応援する選手が複数いると、見所も増えるっていう算段、こりゃあいい。もうひとつ観戦をエンジョイする為の「黒い手」として、「アンチの選手が優勝しない事を見届け、ほくそ笑む」というのもあるにはあるのですが、この手だとその選手がうっかり優勝してしまった時にはかえって腹立たしく夜も眠れないわ、キーッ、これから一週間が始まるってのに幸先悪いったらないわ。という羽目になりかねません。(アンチの選手って…いえいえアンチも愛なんですよ、と言い訳)。
 
やはりデュアル応援作戦がよろしい。他に応援する選手やチームとしては、ヴィルヌーブとか、判官びいき日本人気質丸出しの私としてはミナルディ、マッツァカーネも気概だけならトップドライバーよねとか、もちろん日本人ドライバーとか、それなりにいない訳ではなかったのですが、いかんせんポディウム争いにまったく絡まない人(チーム)を応援するのもいまひとつ盛り上がらないしなァ、などといかにも素人らしいワガママな物足りなさを抱えていた矢先。コンスタントに上位にも食い込み、なかなか応援しがいもあるキラリいぶし銀のジョーダン無限ホンダ、なんだかいい感じ。ふむふむ、この人ハインツ・ハラルド・フレンツェンて選手なのね。?ファイルのモルダーじゃないのね。

保険のつもりが本命に…

こうしてなんとなく応援しはじめると、気がつけば保険どころではなく、結構本気で入れ込んでいたのです。何を隠そうモンツァでハッキネンと共に涙しながらも「あ、今日はフレンツェンいける!」とか頭の端っこでちょっぴり喜んでいなくもない、複雑な(=薄情な)心境となっていたのです。
 
こうしてF1雑誌などでまた情報を追いかけたりしながらいっちょ前のフレンツェンファンとなりました。が。その後、彼を応援するのは思いがけなくイバラの道でした。大体、光る時は光るのですが、いや実力はあるハズなのですが、運がないというか、せっかく予選で目を見張るタイムを叩き出し誰よりもステキなグリッドについたかと思えば本選、誰よりもスタートできないフレンツェン。それでもそんな君が好きさ、ってそもそもそういう事態の保険として見いだした当初の目的はとうに見失っているではないか。けれどもう後には引けません。さらに引退前の何シーズンかはシーズン途中のクビやらチームの倒産やら、すっかり流浪のドライバーと化し、しまいにゃ「いいのよ、私、アナタの元気な姿を見られるだけで」状態でした。

しかし、スポーツを何年も応援していると、必ず突き当たるのが「お気に入りの選手が引退してしまった場合」問題です。気がつけば2002年にはハッキネンが、2004年にはフレンツェンが去り、取り残されて、ひとりのシーズン。…いやいや、私には、私達日本人には、あの彼がいるじゃないか。そろそろ引っ張るのもいい加減にしろ!という声が聞こえてきそうですが、続きはまた次回。