格安輸入車をこれまでに十数台購入し、乗り継いできた自動車ライター外川信太郎氏のフォルクスワーゲン ゴルフ R32の試乗記、後編。
- この記事の目次 CONTENTS
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- 早速走らせてみよう
- まるでMT車のクラッチをややラフに繋いだ時の感覚
- タウンスピードで気になるのは?
- ワインディングは終始「オン・ザ・レール」
- ゴルフ好きにはたまらない一台
試乗を敢行したのが、お盆休み真っ盛り。夏の初めには、「例年並」と発表した長期予報は大きく外れ、連日体温に迫る猛暑続きだった今年の夏。試乗を行うには、観光地を出来るだけ避けた郊外が最適である。
しかし、自宅のある湘南・茅ヶ崎は、観光地そのもの。他県ナンバーでごった返し、昼間の移動機関で最速なのは、このR32ではなく自転車なのだ。
早速走らせてみよう
自宅のガレージでエンジンを始動させると、「このクルマ、メーカー純正かよ?」というほど野太いサウンドが響く。アイドリング状態では、先代R32よりドスが効いている印象だ。
ツインリアマフラーで野太いサウンドを響かす
アイドリングから野太いエキゾーストノートを発するφ80ツインマフラー。VWの専任技術者が音の研究をした結果完成させたというだけあり、全域で身震いするような痛快なサウンドを奏でる。
節度感のあるDSGのシフトレバー
節度感のある「DSG」のシフトレバーをとりあえず「D」レンジにセレクトし、自宅周辺を流してみた。一速からスタートをする「D」レンジの発進マナーは、少々馴れを要する。“普通”のアクセル開度でスタートをしても、ドカン、ズトーン!思わずクビが後方に仰け反った。
通常走行のP-R-N-D-S配列の右側とDから左に可倒することで、手前が−、奥が+のマニアルモードを備えるDGSシフトレバー。周囲に配されたアルミプレートが独自の雰囲気を醸し出している。
まるでMT車のクラッチをややラフに繋いだ時の感覚
次の信号で停車し、再度滑らかなスタートにチャレンジ。現在のクルマだからアクセルは単なる電子制御の加減速リモコンにしか過ぎないが、優しく開度を調整すると、駆動に“液体”を介しているトルクコンバーター式のオートマチックと区別が出来ないほど切れ目のない加速で、いつの間にか6速に入っている。
しかし、渋滞で5m進んでは停車を繰り返すような場合、1速が仕事を受け持つため、やはり駆動に“板と板”が介していることが分かる。例えて言うなら、MT車のクラッチをややラフに繋いだ時の感覚だ。しかし、これもアクセル開度による慣れで解決できる範囲である。
タウンスピードで気になるのは?
タウンスピードで気になる点といえば、ダンピングの強さ。先代のR32よりしなやかになったとはいえ、やはり女性を乗せている場合、最初にこのクルマの説明をカンタンに済ませておいた方が賢明だ。
各高速道路の渋滞情報をこまめにチェックしても、早朝、深夜問わず渋滞また渋滞。出撃がなかなか出来ないまま自宅のガレージで息を潜めているR32。狙い目は、お盆休み前半のUターンだ。数日後、その日がやってきた。東京方面40キロ渋滞、郊外へはガラガラ。向かったのは長野方面。私が走りなれた中央道だ。
チケットを受け取り、本線の流れを覗き込むと狙ったとおりガラガラ。
DSGパドルでモードチェンジ
これまで出番のなかった「DSG」のレバーを左側に倒しMTモードに。
シフトレバーの位置がDレンジ、MTモードに関わらずこのパドルを引けば即座に手元で変速が可能。見た目の演出に欠ける部分はあるが「カチッ」としたクリック感は、心地が良い。
2速にシフトして、アクセルを踏みつけると、「ボーッ」という低音から「シャーン」さらには「シュワーン」という抜けの良い澄んだサウンドに変わり、6500prmに引かれたレッドゾーンを飛び越え7000rpmまで一気に吹け上がる。すでに、この時点で非合法な速度に達していたため、「D」レンジで合法に則った走行をすることに。すると、先程の雄叫びは嘘のように息を潜め、6速、2200rpmで悠然と巡航。この地点が上り10%勾配などということなど微塵も感じさせないまま、アクセルに足を乗せているだけのお気楽運転もまた楽しい。
しかし、ステアリングのギアレシオは相当クイック。蛇を入れた瞬間、即座に反応し自らが判断した蛇角以上にクルマが向きを変えようとする。直線では、やや気を遣う要因の一つだ。また、扁平率40%のタイヤは、エアーボリュームなど期待できないため、大型トラックに刻まれた轍には、簡単にステアリングを持っていかれる。
法定速度を保つことの方が難しいクルマ
法定速度+αをキープしたまま流していると、後方から10年落ちの某国産VIPカーにお決まりの宝飾を施したワカモノがあおり運転を始めてきた。ミラー越しにクルマの挙動を見ると、アンダーステアの“ア”も知らないようだ。相手にする自分も幼いが、もう一度だけDSGのパドルに手を掛け、6速から一気に3速へシフトダウン。先程の雄叫びが再びキャビンを包み、アスファルトを4つのタイヤが噛むと同時に猛進。次のギアにシフトアップをする頃には、ミラーには闇しか映っていなかった。
日本の高速道路では、法定速度を保つことの方が難しいといえるこのクルマ。何しろ流しているつもりでも気が付けばとんでもない速度に達していることもしばしば。後方から忍び寄る公安職の方が乗るクルマと、無人で高額な証明写真を撮ってくれるカメラにはくれぐれも要注意だ。
ワインディングは終始「オン・ザ・レール」
ワインディングも“名のあるルート”では行楽客が多く、思い存分走らせることが出来ない。しかし、私には関東近郊の周囲を山々に囲まれた某県に全長10キロにも及ぶ“隠れルート”を知っている。通るクルマといえば果樹園の軽トラくらいだ。コースは、ステアリングをフルロックまで切り込むようなタイトコーナーから、半径300mの高速コーナーまでまさに「コーナリングのてんこ盛りやー!」といえる変化に富んだコース。
V6、3.2Lエンジン搭載で本格スポーツカー並の動力性能
朝露に濡れたこのコースをもちろんMTモード、フルスロットルでスタート。砂が浮いた路面にも関わらず4モーションの優秀な制御が生み出すトラクションで弾丸のようにダッシュ。迫るコーナー手前でブレーキペダルを踏みつけると、市街地ではオーバーサーボ気味に感じたドイツ・アーテ社製ブルーキャリパー&17インチ大口径ベンチレーテッドディクスは、一気に速度を殺す。ややハイペースのつもりだったが、ロールはほとんど感じることなく、すでにコーナーをクリア。限界は極めて高く、鼻先にV6、3.2Lエンジンを搭載しているとは思えないほど軽快だ。
先代R32がSOHCだったのに対し、DOHC化。最高出力は241psから250psに向上。直噴FSIエンジンではないが、最高速度250キロ、0-100キロ加速6.2秒と本格スポーツカー並の動力性能を発揮。
タイトコーナーの立ち上がりでフルスロットルをくれると、パワースライドを演じることも出来るが、4モーションがフロント側に駆動を移行し、すぐさまアスファルトを捉える。いずれにせよスタビリティは非常に高い領域にあるといえよう。また、ダウンヒルを繰り返してもブレーキの踏力変化は皆無。一度、サーキットで走らせてみたいクルマだ。
ゴルフ好きにはたまらない一台
「ゴルフ」R32は、5ドアDSGで¥4,430,000というプライス。「ゴルフがこんなにするのか?」と思う人をVWはターゲットにしてはいない。スポーツカー並みの性能を有し、魅惑のエキゾーストを始め、エンジニア達が究極のゴルフを造り上げたのだから、背景を理解すれば、「ゴルフ」好きにはたまらない一台なのだ。
週末のワインディングや走行会から、家族サービスまで、これ一台でOKのR32。一度乗ってみれば、決して高い買い物でないことは理解できるはずだ。