達人「松下 宏」が斬る!
職業:自動車評論家
中古車の業界誌から自動車誌の編集者を経て、自動車評論家に。誰でも買える価格帯であり、小さくて軽く、そして燃費がよいということを信念として評論。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員としても、その信念は変わらない。そのため、大本命といわれている車種さえ外して...
主力モデルのA4に早くもアバントが追加された
日本市場で急速に存在感を高めてきたアウディにとって、主力モデルとなるのがA4。今年3月のフルモデルチェンジでアウディ80から数えて8代目となるセダンの新型車が登場したが、続けて7月にはステーションワゴンのアバントも発売された。アバントとしては5代目のモデルに当たる。ヨーロッパ車ではボディバリエーションの追加まで1年くらいかかるのは当たり前だが、A4はかなり速いタイミングでアバントを追加してきた。
ちなみにアバントとはフランス語のアバンギャルドに由来するネーミングで、先進性などの意味がある。アバンギャルドはメルセデス・ベンツもグレード名に使っているが、アバントはアウディではステーションワゴンをアバントと呼んでいる。
外観デザインは今やアウディを象徴するものとなったシングルフレームのフロントグリルなど、ひと目でアウディと分かるもの。ボディサイドの下部に明快なキャラクターラインやすっきりした感じのベルトラインなどが伸び伸びとした美しさを表現している。
ボディサイズは基本的にセダンと同じ。ルーフレールの装着によって全高のみがやや高くなるが、4700mmをわずかに超える全長と1825mmに達した全幅は同じである。ホイールベースも同じなので、セダンのルーフを伸ばしてアバントに仕立て上げられモデルだ。
従来のモデルに比べて全長が+120mm、全幅が+55mm、ホイールベースが+165mmという具合にボディが拡大されたのに合わせ、居住空間は格段にゆったりしたものになったし、ラゲッジスペースも標準状態で490L、セカンドシートを倒した状態では1430Lという大容量を誇るものとなった。
ラゲッジスペースはゴルフバッグを横に積みたいという日本でのニーズに合わせて右側のサイド部分を凹ませた構造にしたり、あるいはリバーシブル構造のフロアを設けたり、さらにはDピラーにレールを設けてトノカバーをスライドさせやすい構造にしたりといった具合に、さまざまな形で使い勝手に配慮した仕様が用意されている。容量の大きさと合わせて注目されるところだ。
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スポーティでコクピット感覚あふれるインテリア
搭載エンジンは直列4気筒1.8LのTFSI(直噴ターボ)と、V型6気筒3.2Lの自然吸気直噴仕様の2機種。1.8LはFFでマルチトロニックと組み合わされ、3.2Lはフルタイム4WDのクワトロで6速ティプトロニック仕様となる。搭載エンジンに合わせてそれぞれ1グレードだけの設定となるのもセダンと共通だ。
セダンからアバントの発売まで4カ月ほどの間隔しかなかったが、この間にもさまざまな改良が進められ、エンジンはフリクションロスの低減などが徹底された結果、1.8Lエンジンは導入当初のセダン用エンジンに比べて10%もの燃費向上が図られたという。そもそも従来のモデルに比べて動力性能を向上させながら燃費も良くしたのが最新のA4用1.8TFSIエンジンだが、それがさらに高いレベルに達したとのことだ。
運転席に乗り込むといかにもアウディらしい空間が広がっている。余裕の広さが確保されるのと同時に、インストルメントパネルの中央部分をドライバー側に傾けて配置したレイアウトによって、スポーティさを感じさせる適度なコクピット感覚が演出されている。
1.8Lエンジンは160ps/25.5kg-m(118kW/250N・m)のパワー&トルクを発生する。ターボの装着によって1.8Lながら2.5Lエンジン並みのトルク性能を持つ。それもわずか1500回転で最大トルクに達し、それがフラットに持続する特性なので、低速域から滑らかでトルクフルな走りを実現する。それもターボの存在を感じさせない自然な加速フィールなので、走らせていて気持ちが良い。
無段変速CVTのマルチトロニックは滑らかな変速フィールを実現するとともに、8段変速のマニュアルモードも備えている。スポーティな走りを楽しみたいときにはマニュアルモードを選んで走れば良いが、8段もの変速比があるとかえって使いにくさも出てくる。6速か7速で十分のようにも思えた。また微低速域でのわずかなギクシャク感など、CVTのクセが残っている部分が多少感じられた。
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好みのセッティングが選べるアウディドライブセレクトを用意した
V型6気筒3.2Lエンジンは265ps/33.7kg-m(195kW/330N・m)のパワー&トルクで、排気量に見合った動力性能。バルブリフト機構が備わって、パワーと燃費がより高次元で両立されるようになった。こちらはアクセルを踏み込んだ瞬間からグイという力強さを感じさせ、セダンに比べると人間ひとり分くらい重くなったアバントのボディを軽々と引っ張っていく。
3.2L車では、標準仕様のモデルとアウディドライブセレクトと呼ぶ走りのモードを変更できるオプションを装着したモデルの両方に試乗した。ドライブセレクトを装着したモデルでは、コンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアルの4種類のモードが選べる。
通常はコンフォートまたはオートを選び、走りを楽しみたいときにはダイナミックを選ぶことになるが、ダイナミックを選ぶと走りのフィールが劇的に変わる。エンジンはアクセルワークに対して俊敏なレスポンスを示すようになるし、吹き上がりもよりスムーズになる。6速ATはより低いギアで引っ張ってさらに力強い加速を示すようになるし、ステアリングは操舵フィールが重くなってわずかな操舵で確実に向きを変えるようになる。ダンパーの減衰力も変わって硬めの乗り味となる。
エンジン、トランスミッション、ステアリング、足回りなどのフィールがこれだけ大きく変わると、まるでほかのクルマに乗っているような印象を受けるほど。ダイナミックを選ぶと本当に走るのが楽しくなる。ただ、ドライブセレクトのオプション価格は42万円。かなり高めなのが難しいところ。
アウディA4アバントの価格はセダンに対して18万円高の設定で、1.8TFSIが437万円、3.2FSIが663万円という設定。これにオプションを装着して乗ることになるが、完全に日本仕様となったカーナビを含めたMMI(マルチメディアインターフェイス)などが標準で装備されているので、オプションを装着しないでも乗れる。
1.8TFSIは、メルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズのベースモデルと比べて十分な価格競争力のある価格が設定されている。ユーザーとしてはブランドの違いをどう選ぶかということになる。
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written by 松下 宏
代表グレード
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アウディ A4 アバント 1.8TFSI
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ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高)
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4705×1825×1465mm
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車両重量[kg]
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1560kg
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総排気量[cc]
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1798cc
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最高出力[ps(kw)/rpm]
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160ps(118kw)/6200rpm
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最大トルク[kg-m(N・m)/rpm]
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25.5kg-m(250N・m)/4500rpm
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ミッション
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CVT
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10・15モード燃焼[km/l]
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13.4km/l
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定員[人]
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5人
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税込価格[万円]
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437.0万円
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発売日
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2008/8/19
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レポート
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松下宏
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写真
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森山良雄
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